両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT)

心臓の電気現象と機能は密接に関係し、そのポンプ機能を最大限にすべく、正常心筋では刺激伝導系を介して極めて緻巧な調整がなされる。不全心の無視出来ない割合で、この正常な電気活動が営めなくなり、単心室内・心房・心室間, 両心室間の同調性が失われる。同調性を失うと、収縮拡張機能・血行動態は加算的に不良化し、器質的には心臓リモデンリングおよび機能性弁逆流に至り、最終的には心不全を発症する。

ペースメーカーを用いて、人為的に同調性を再構築する試みがなされてきたが、現段階で最も確立されたペーシング治療が両心室ペーシングを行う心臓再同期療法 (CRT) である。臨床的にはwide QRS (=心室内の伝導障害を示唆) を伴う左室駆出率が低下した有症候性の心不全患者がCRTの適応となり、大規模臨床試験では、図に示す様に生命予後改善が証明された。

当科では科学的根拠に基づいた当該治療を積極的に導入する方針を示しており、何よりも患者様へのunder-use を避けるべく、症例の選定に注力してきた。心エコーを入り口とするスクリーニングシステムの確立とグループ間での風通しの良いディスカッションを通して、最近数年間は飛躍的に症例数が増え、患者様の健康に貢献してきた。具体的には2016年, 2017年共に年間40症例に近い症例を経験している。

CRTに関しては依然未解決な問題点が多く存在するが、最良の医療を全人的および科学的に行う為に、現在主に下記の取り組みを試行している。

(1) CRT non-responder clinic: CRTの効果を減弱させる事由への対処

  • 心房細動併存症例には積極的にアブレーション (肺静脈隔離術または房室結節接合部切除術) を推奨し、100% 両室ペーシングを達成する。
  • CRT導入後の重症機能的僧帽弁閉鎖不全残存症例には積極的にMitral Clipを検討する。
  • デバイス内の新しいアルゴリズムの導入:自動房室・両室刺激時間調整や多点ペーシングの活用

(2) CRT患者への運動負荷心エコー:

  • 体動時における至適ペーシング設定の考察と当院発のアルゴリズム提唱
  • 運動誘発性機能的僧帽弁閉鎖不全に対する病因および介入の検証

循環器領域の中でも、一見難しそうに見える分野ではあるが、電気現象と心機能の関係性は探求すればする程興味深い分野である。豊富な症例数・優れたシステム・多くのエキスパートが存在する当医局はCRTを学ぶ環境としては最良の機関の一つと自負している。循環器内科医を少しでも考えていらっしゃる先生には、是非深遠なる当該分野を経験頂き、新しい息吹を吹き込んで頂きたい。

CTR clinical trials

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